1. クロス取引(両建て)とは
クロス取引(両建て)とは、現物取引の買いと、同じ株数の空売り(次項で説明)を組み合わせて、値動きの影響を相殺する取引方法のことです。現物取引で株主優待を取った時には、価格変動のリスクを抱えることになります。たまたま優待を取ったその日の夜に、リーマンショックが再度起こらないとも限りません。このリスクはなかなかに大きいです。このリスクをきれいに無くしてしまうのが、クロス取引です。
信用取引とは何かを簡単に説明し、クロス取引の実例を紹介します。クロス取引の最大の問題点である、逆日歩(ぎゃくひぶ)に関しても説明します。
2. 信用取引とは、空売りとは
現物取引は、自己資金で買える金額の株を買う、最も基本的な取引です。信用取引は、保証金を担保にして、自己資金以上の金額の株も買える取引です。
現物取引は、まず株を買って、それを売る、という順序(買い→売り)を変えることはできません。
信用取引は、証券会社から株を借りてきて、まず株を売って、それを買い戻すという順序(売り→買い)での取引も可能になります。これを空売りと呼びます。自分の手元に株がないのに売る、という意味で、空という文字が付いています。この場合は、売った価格より買い戻した価格のほうが低ければ、利益が出ます。買いとまったく逆の結果になります。
信用取引をするためには、半年間の現物取引を経験した後に、信用取引口座を開設する必要があります。
まだ半年未満の方は、いくつかの株主優待を現物取引で取って、練習をしておいてください。
3. 例:東京ドームの株主優待
2012年1月末日が権利確定日である、東京ドーム(9681)の株主優待を例にします。60000株の権利を取ると、指定席Aのチケットがシーズン中何度でももらえる野球株主証がもらえます。
権利付最終日
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 2012年1月の権利付最終日と逆日歩日数 1月20日分は1月17日、逆日歩日数は3日です。 1月末日分は1月26日、逆日歩日数は1日です。
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権利付最終日は1月26日でした。1月25日の夜に、60000株の現物買いと、60000株の空売りを、成行で発注しておきました。1月26日の夜に、現渡(げんわたし:自分が持っている現物株と空売りを相殺して、両方を決済すること)を行いました。これで権利が確定します。
決済までに株価が動いても、コストには影響がありません。
4. 例:利益とコスト
利益とコストを考えます。現物取引の場合とは若干異なります。
利益は、株主優待だけです。配当は利益になりません。なぜなら、空売りしたまま権利付最終日を迎えると、配当と同じ金額を払わないといけないからです(信用配当調整金)。つまり、利益は、野球株主証だけです。
コストは、売買の手数料と、逆日歩(次項で説明)です。売買の手数料は、現物取引のときとほぼ変わりません。権利付最終日に現物の買いと空売りの2回分の手数料がかかりますが、現渡の手数料は無料です。信用取引はお金を借りて取引を行っているので、借りたお金の金利がかかります。ただこれは年利2%程度なので、わずか2日間の取引では大した額になりません。
5. 例:逆日歩
実は、クロス取引においては、逆日歩が最大の問題です。
空売りをするときには、証券会社から株を借ります。証券会社が株を十分持っていない時は、第三者に株を借りに行く、という事態が発生します。この調達は証券会社が行ってくれますが、かかった費用を請求されます。これを逆日歩と呼びます。逆日歩の上限額はルールに基づいて決められていますが、取った株主優待を超える額になることもあります。
品貸料について:日本証券金融
ある日の逆日歩は、その翌日に発表されます。2012年1月の東京ドーム株の逆日歩は、1000株当たり6000円でした。60000株を空売りしていた人は、36万円を払う羽目になりました。
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(4) 逆日歩対策」では、クロス取引を少し応用して、逆日歩の問題も消してしまう方法を説明します。